■ 第十八回 中国 江蘇省太湖の畔へ春の碧螺春の旅

4月5日は清明節です。日本ではあまり聞きなれない日ですが、中国では24節気の中でもっともお茶には関係する節気です。地方から出てきた人々はこの日は故郷に帰ります。丁度日本人がお盆に帰省するのと同じようです。3月20日の春分節と4月5日の前までに明前茶が作られるのですが、昨年と今年は残念ながらインドのダージリンの新茶と重なり(昨年は雨が多く、今年は寒いのと雨が少なすぎるため)残念ながら春の碧螺春は茶畑を訪問できていません。

1997年より私の中国通いが始まりました。
というのは静岡県の掛川で開かれたお茶まつりでお顔見知りになった、そのころは浙江農業大学の童慶啓先生を頼りに、龍井、碧螺春を見に行ったのが始まりです。



西山という碧螺春の産地
滋賀県の琵琶湖の3倍といわれている『太湖』のほとりの西山という碧螺春の産地です。東山と西山、両方有名な産地があり、洞庭東山、洞庭西山とお茶の産地表示では書かれています。 それぞれの産地の方は、島だからいつも湿度があっていいとか、半島の方は地面が肥えているので島でないほうがいいとか!! 必ずしもそうは言い切れないと思っていますのでメランジェでは両方仕入れたり、ある年はどちらか1箇所のときもあります。
本の中の碧螺春のお茶の説明に書かれている果物の木の下で育つので花の香りが移り柑橘類の香りがする!!なんてことは信じられませんが、確かに大きな木下で育っているので天然の覆いをかけたようになるため普通の茶畑のお茶とは異なり柔らかな香りと味わいがあり美味しいお茶です!



お茶の新芽
日本の緑茶を作っている木とちょっと違って、このようにたくさんの芽が頂点だけでなく色々なところから新芽が出てきます。

小さなお茶の芽だけを飲む。グラスの中にお茶を2〜3g入れてお湯を注ぎます。
簡単なお茶のいれ方ですがこのガラスのコップの中に100〜200のお茶の新芽が入っています。とってもいい香りで何度もお湯を上から足して飲んでいきますが考えれば大変贅沢な飲み方です。もっと大きくなったら一枚の葉が大きくたくさんのお茶を飲むことが出来るのに小さな芽のときに摘んでしまい香りと共に春の息吹を感じていただきます。
一年無病息災を祈って春の清明節に一年で一番贅沢なお茶をお互いに贈り合ったりします。



茶摘み
こんな小さな籠に朝から夕刻まで摘んでも少しだけしかとれません。
いいお茶は、1斤(500g)に8000芽とか7000芽とか言われています。

東山の茶農家を訪れたとき茶摘を終えて帰ってこられる方に道で出会い、籠の中の量を見せていただきました。ダージリンの茶葉や台湾の東方美人も普通のお茶に比べて小さな芽では摘みますが、碧螺春や龍井には比べ物になりません。本当に家族2〜3人の女性で摘むのは一日そんなには摘めません。その上1芯2葉にするため外の葉を釜に入れる前にはずします。大変な作業です。昔皇帝に献上するために作ったそうですが労力を考えると最後までしっかり飲まないと!と思わず産地に行くと思ってしまいます。



私の大好きな「梅婆ちゃん」

このおばあちゃんが大好きで3年ほど続けて通いました。
最初このおばあちゃんの家に行かせて頂いた時、息子さんとコンビで碧螺春の製茶方法を見せて下さりビデオに納めさせていただきました。一回お茶を釜に入れると40分ほど手を休めることが出来ません。おばあちゃんが経験で色々な薪をくべて調節します。本当に息の合った親子のようです。

お茶の製茶する釜を息子さんと一緒に用意する梅婆ちゃん(左)。

本当に楽しそうでしょ!小さくて本当にかわいいおばあちゃんで、お顔を見に行くだけでもと、ある時秋に友人数名と行ったこともあります。



小さなお茶の芽を摘んだあと少ししおれたら、この釜にいれて最後までこの釜1つで作り上げます。

碧螺春のお茶は、すべて出来るまでこの熱い釜で40分近く炒りつづけます。まず水分が少なくなるで釜の中で炒めるようにかき混ぜていきます。その後しんなりしてゆくと両手の中でこすり合わせてゆきます。少しずつ撚っていきますが釜に触れている茶葉が香ばしくなると困るのでつぎつぎ小分けにしてこすり合わせていきます。その後今度は丸く円を描くように手のひらの中で丸めていきます。すると白い産毛が浮かび上げって来て粉のように丸くなった茶葉を覆っていきます。不思議なくらい多くの産毛が回りに浮かび上がって皆さんが日本で見られる碧螺春の形になります。一回で一釜500g〜800gの生葉を入れて出来上がり150〜200程度でしょうか?大きな茶芽だと又違ってきますが、一日ごとにたくさん芽が芽吹き大忙しの1ヶ月だそうです。(4月50日が穀雨ですのでそれまでピークです。)



お茶の花
春はゆっくり話す時間も余りありませんが一度秋に訪問した時のことです。梅婆ちゃんがわざわざ茶畑から摘んで来てくれたお茶の花。(これは11月に訪れたときのものです。)

お茶を飲んでいる時に茶畑まで入って花を折ってきてくれたようです。梅婆ちゃんは、息子さんから頂いたウサギをペットにしています。そのウサギに餌を上げている様子や、みかんの皮で陳皮を作っているところなどを言葉がまったく通じない私の手をとり連れて行って見せてくれたりします。言葉は通じなくても本当に嬉しいコミュニケーションです。
いつも私の顔を見ると目を潤ませて又よく来たね!いつも同行してくれ許さんに話してくれます。



梅婆ちゃんの手作りの豚肉の塩漬と菜っ葉のご飯
私たちグループに手作りでお昼ご飯を作ってくれるというのでご馳走になることにしました。この家では豚を塩漬けにしているのと、日本のように高菜のような漬物も作っておられます。これで美味しい昼食を作ってくれました。同行した友人はとても喜んでくれ今だに、これがこの旅行で一番のご馳走で一番の思い出と言ってくれます。

何時までも梅婆ちゃんに元気でいてほしいものです。




東山の茶館
これは以前、横浜の友人が教えてくれた東山にある茶館で、お湯を魔法瓶を持って近所の方が買いに来たりしている茶館です。大きな風呂桶のようなものにお湯がたっぷり入っていてお茶を頼むとこのお湯でお茶をいれてくれ、店内でお茶を飲むことが出来ます。



中国の魔法瓶
ここの色とりどりに並んでいるのが中国の魔法瓶です。ポットに入れたお茶とこの魔法瓶を渡してくれるので自分で何度もお茶にお湯を上から足して楽しみます。龍井などでお茶を飲むときもグラスに入ったお茶と魔法瓶を渡されます。ですからこのお風呂のような大きなものでお湯を用意しておかなければ、お薬缶では足りないのでしょう。

今でもこの茶館が存在し、他にもお婆さんが一人で開いている茶館もこの村にありました。古き時代の名残がいまもなお存在していて、中国が変わりかけていますが続けて維持してほしいものです。



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