香港の「楽茶軒」オーナーの葉栄枝氏をお迎えして贈る「香港お茶紀行」を創刊いたしました。葉氏は、香港茶具文物館の茶藝指導者でもあり書家としても知られています。当店では「中国茶セミナー」の先生としても活躍しています。

今後、香港のお茶事情や中国茶のお話、Q&Aなどを掲載していきますので、みなさまも楽しみにしていて下さい。





TEA : 中国文化の飲料

茶は、三千年以上の間中国の土地に栄えた、中国人が広めた偉大な文明の一つです。中国では、毎日の生きる糧となる米や麦よりも、崇拝される植物として茶は存在しています。現在、茶は単なる飲み物として飲まれているだけでなく、文化や生活様式や哲学の領域まで踏み込んだ物として扱われています。その特徴である、「和、敬、静、寂」は、数百年前に日本の茶人により提唱され広められました。そして、その精神は今も継承されています。

最初、茶はイタリアのミネストローネのように煮込んで、米と一緒に食べる野菜の一つとして用いられていたと言う事は興味深い事です。その後すぐに、茶は美味しくて特別な味がするものというだけでなく、健康に良い物、とりわけ肥満を防ぎ活力を持続する効果があるものとして知られるようになりました。その後、中国で禅宗が広まり、長時間の座禅をしている時に、茶には覚醒効果ある事が知られるようになりました。その頃、茶は食べ物としてよりも、飲み物として用いられるようになりました。この習慣は、唐代の茶の教典とされている「茶経」の著者の「陸羽」によって確立されました。この事は、ちょうど「栄西」が日本での茶に影響を与えたように、日常生活における茶の重要性を確立するのに多大な影響を与えました。

その著書の中で、「陸羽」は、茶の歴史、道具、伝説、文献、入れ方、準備の仕方についてたいへん詳しく述べています。また、いろいろな地域の茶や茶具、水質についてまで詳しく調査をしました。その頃、茶葉は摘まれたあと天日乾燥(日光萎凋)されていました。その後、蒸されたのち、洗浄、発酵(渥准)(悶黄)、_焙(乾燥)して貯蔵し易いように固まりにされていました。茶は、パウダー状(抹茶)にされた後、土瓶(茶壷)で火にかけて抽出され茶碗で飲まれていました。また時には、風味を増すために、いろいろな乾燥果実や木の実や香草と生姜や塩が加えられて飲まれていました。

茶の歴史の中でもう一人の重要な人物は、北宋の最後の皇帝「徽宗」です。政治家というより芸術家であった彼は、茶はそのまま飲むべきと提唱し、火にかけて抽出しないで沸騰した湯を広口の水差しを用いて一気に抹茶と共に茶碗に注ぎ、竹の茶筅で掻き混ぜて、「天目」として日本でよく知られている分厚い黒上薬の塗られた茶碗で出されました。また、彼は茶を品評する茶会を催し、それが大変有名となり、茶は中国全土で飲まれるようになり、後に韓国や日本に波及しました。日本の「茶道」は、今もこの作法を継承しています。

中国では、茶の香りと味を増すために、鍋で加熱したり(_焙)、酵母発酵(渥堆)(悶黄)させたり、自家発酵(揉捻)(揺青)(転色)をさせるなどの異なった方法の茶の製造が行なわれていました。人によっては、この小さな葉から製法の違いにより花や果実、香草の香りや自然の香りと言った数多くの産まれるという事は信じ難い事かも知れません。この豊かな味と香りにより、茶葉を湯に浸すだけでその成分を抽出できるようになりました。小さな朱色の宣興紫砂茶壷に、新鮮な涌き水を用いて抽出するのが、茶葉の持っている全ての要素を楽しむ最高の入れ方です。この入れ方は、15世紀頃から始まり、それ以後一般的な入れ方となりました。

製法の違いにより、茶は、緑、青、紅、白、黄、黒の6つの分類に色によって分けられます。最初の3種類で世界の生産茶の90%を占めています。緑茶は、摘み取られてすぐに、酵素の働きを止める(殺青)為に加熱され、酸化酵素の働きが止まった茶葉から作られます。この茶は、美しい緑色、新鮮な味と香り、新鮮なエンドウ豆やインゲン豆、時には草や芝生の香りがします。浙江省杭州の龍井茶や江蘇省蘇州の碧螺春は、最も有名な中国緑茶です。また、あまり知られてはいませんが、安徽省も美味しい茶の産地です。安徽省の太平猴魁、黄山毛峰、緑牡丹、六安爪片は全て大変美味しい茶です。

緑茶は、健康飲料と言われています。肥満を防ぎ、気分をリフレッシュし、肌を美しく保つ効果があります。最近の医学調査によると、癌になる確率が減る、放射能障害が減るという事も報告されています。これは、抗酸化作用のあるポリフェノールを多く含んでいるためです。緑茶は、70度から80度の少し温度の低い湯で、熱の逃げやすい薄手の急須(茶壷)や蓋のある茶碗(蓋_)で抽出するのが、最も適した入れ方です。湯温は、茶葉の柔らかさや新鮮さにより異なります。抽出する時に蓋をしないこと、急須(茶壷)や茶碗(蓋_)に毎回茶葉が浸る程度の湯を残すことが、美味しい緑茶を入れる心得です。

紅茶は英語圏でブラックティーと呼ばれて、緑茶と対極にある完全発酵茶です。摘まれた茶葉は、日光や人工的に萎れさせられた(萎凋)後、茶葉を揉んだり裁断(揉捻)し葉汁を出させます。ある温度のもとで、茶葉の含有物と空気中の酸素が結合するのを茶葉に含まれる酵素が作用(転色)し、豊かな風味と濃い紅色の茶が作られます。紅茶の最大生産地は、中国ではなくインドとスリカンカ(セイロン)です。しかし、中国にも工夫紅茶(工夫は格闘技のカンフーと同じ文字ですが、意味は大変手間のかかったという意味です)と呼ばれる手作業で作られた高級紅茶があります。安徽省の祁門や福健省の正山小種は、その独特な香りで良く知られています。紅茶は、厚手の急須(茶壷)(もちろん宜興紫砂茶壷が最適です)で沸かしたての湯で抽出するのが、最も良い入れ方です。多孔性の宜興紫砂茶壷は保温性が良く、味や香りを引き出します。中国で紅茶は、「温」や「陽」とされ、消化を助けるとかさまざまな人が受け入れやすいとされています。

青茶は、半発酵茶で烏龍茶の名称で一般に知られています。しかし、酸化発酵の度合いによる違いが顕著なので、最も複雑で洗練された茶です。多くの台湾烏龍茶のように、緑色であったり、武夷岩茶のように紅色であったりします。栽培方法と製造過程が品質に大きく関係します。本来の産地で良く管理された茶園と恵まれた天候、熟練した職人技が作り出したものだけが、気品のある生き々々とした、余韻が長く残る香りと味の茶となります。

鉄観音茶と毛蟹茶は、最高級茶ではありませんが、福健省の安溪で生産される烏龍茶を代表するものです。鉄観音は、蘭のような花の香りがし、豊かな風味とあと味を持っています。時には、桃や甘いメロンのような風味があります。それは、魅力的で表現するには難しい大変複雑な風味です。毛蟹茶は、新鮮でシンプルですが、豊かな風味がします。花のような香りと、芳醇な味がし時には蟹のような風味がします。武夷岩茶はもっと強く発酵させた茶でしっかりしていない形の茶葉です。この茶は、強い味と香りを持っています。武夷産には有名な茶が数多くあります。大紅袍、鉄羅漢、玉桂はその一部です。その他に、汕頭烏龍茶、正式名鳳凰單_は、華南の果実「竜眼」に似た大変甘く濃厚で豊かな香りがします。また、コニャックを一滴垂らして飲まれる場合もあります。

烏龍茶は、身体のバランスを整えるのに大変良い茶です。特に、余分なコレステロールや脂肪を取り除く効果や、血管を柔らかくし心臓発作や循環器病を予防します。烏龍茶の入れ方は他のどの茶よりも難しく、中国の茶道とされるぐらいです。良い入れ方は、小さな宜興紫砂茶壷で85度から95度の温度の高い湯をし、通常茶壷の半分まで茶葉を入れて濃い目の茶を入れます。抽出時間は大変重要で、長過ぎると渋苦くなります。30秒が抽出時間の目安ですが、微調整が必要です。抽出の度に茶壷の湯を最後の一滴まで絞っておく事が、美味しい烏龍茶を入れる一寸した心得です。

白茶は、シンプルな茶で、天日乾燥される微発酵茶です。甘味で、軽く、爽快な茶です。銀針と壽眉牡丹はその代表的な茶です。約85度の中温の湯で入れます。黄茶や黒茶は、後発酵茶です。プアール茶は、最も有名な黒茶で、その他の大半は中国北西部の少数民族の茶です。

中国文化において茶が大変重要な物となるのは、その芳香や美味や綺麗な色だけでなく特別な特徴があるからです。それは、自然、健康、空、虚、静、調和に深く関連しているものだからです。この特徴は、中国哲学の「道」に大変似通ったものがあります。だから、中国では、特に学者は不朽の飲み物として賞賛しました。茶は、彼らの芸術活動の源となり、人生修行の活力となり、友人との掛け橋となりました。そして、風景、天候、人との関係、人の数、朝昼晩といった時間に、当然良い茶や水、茶具、入れ方などに、茶を楽しむ中から多くの事を見出しました。だから、文人茶は中国茶文化の原型となる茶と言えます。

日本の茶が、中国の起源のそれと全く違った発展を遂げたのは興味深い事です。日本での茶は、禅宗に深く関連したものです。それは、中国に派遣された僧侶によって、茶が日本に紹介されたと言う事に関係があります。また、ほとんどの日本の茶人は、僧侶もしくは禅宗を信仰した人物です。田村珠光、武野紹_、千利休は偉大な茶人です。「寂」は、茶の世界に多くの価値を与えた茶道の不可欠な要素です。しかし、日本の茶人は、茶を楽しむ事より、精神修行や仏教の精神を伝えるものとして用いていました。中国の学者は、茶を飲むと言う事の喜びと落ち着いた心が精神的世界に入って行くのを楽しみました。友人や美しい景色の中で、美味しいお茶を楽しむ事によって、心の自由や満足感を得ました。

最後に、中国では、茶を飲むのは喫茶の楽しみの半分でしかありません。自分自身や友人の為に準備をする事が、あと半分の楽しみです。そして、暇潰しに茶具を用意したり、湯を沸かしたり、茶を入れたりし、余暇の過ごし方として茶を楽しみます。この事は、インスタントコーヒーを飲みなれている人には、慣れない面倒な事に思えるかも知れません。しかし、この事は、先日カルフォルニアを旅行した時に初めて見た巨大なセコイアの木の事を思い出させます。その大きな木は、材木として利用するには柔らか過ぎるので、何百年も切られる事無く立っています。そして、驚いたことに、「弱さは時には強さである」という看板が添えてありました。そこには、「茶」や「道」に通じるものがあると思います。

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